大判例

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釧路地方裁判所 昭和29年(行モ)1号 決定

申立人等訴訟代理人は、被申立人綱走市教育委員会が昭和二十八年五月十六日申立人等に対してなした転任処分の効力の発生はいずれも釧路地方裁判所昭和二十九年(行)第三号転任発令竝に懲戒停職処分取消請求事件の本案判決確定に至る迄之れを停止する旨の決定を求め、其の理由として主張する事実の要旨は、申立人小田島達夫は綱走市立中央小学校(校長須貝麟太郎在勤)、又申立人中村知久、近江幸之助は綱走市立綱走小学校(校長小林金太郎在勤)の各教諭であり、被申立人綱走市教育委員会は地方公教員法第七条に基き同法第八条所定の事務を処理するため網走市に設けられた行政庁であるところ、(一)被申立人網走市教育委員会は昭和二十八年五月十六日申立人小田島に対しては網走市立中央小学校教諭を免じ同中園小学校教諭に、申立人中村に対しては網走市立網走小学校教諭を免じ同嘉多山小学校教諭に、申立人近江に対しては網走市立網走小学校教諭を免じ同音根内小学校教諭に各補する旨の転任発令をなしたが、右転任発令処分は、(イ)北海道内の教職員二万六千余名を以て組織する北海道教職員組合の網走市支部書記長である申立人小田島、同副委員長である申立人中村、同組織部長である申立人近江が何れも右組合の役員であり且つ右組合のために活動したため、之れを弾圧するためになされた不利益処分であつて地方公務員法第五十六条に違反し、(ロ)申立人等の勤務する各学校の校長の意見を聞かずに抜打的になされたものであり、教育公務員特例法第十三条第五項の趣旨に反し、(ハ)教諭の転任につき勤務小学校長の意見を予め聞くといふ教育行政上の慣習法に反し、(ニ)昭和二十三年十月二十一日附北海道教育部長通牒(子学第二三四八号)、及び昭和二十四年四月八日北海道教育委員会と北海道教職員組合間の申合せに確認された右組合の人事についての具申権を無視し、右組合網走市支部と網走市教育委員会との間に定められた昭和二十七年二月十八日附協議に関する覚え書に反し、右組合網走市支部との協議を欠き取消さるべきものであるから、申立人三名は右転任発令に従うことを拒否したところ、(二)被申立人網走市教育委員会は右拒否は地方公務員法第二十九条第一項第一号・第二号に該当すると称して、昭和二十八年六月二十六日申立人三名の各本職を免ずる旨の懲戒免職処分をした。然しながら右懲戒免職処分については地方公務員法第二十九条第一項第一号・第二号に該当する事由は全くない。又右懲戒免職処分は前記(イ)乃至(ニ)と同様の理由により違法である。のみならず右懲戒免職処分については、(ホ)労働基準法第八条第十二号の教育の事業に従事する職員である申立人等については、地方公務員法第五十八条第三項(本項中「勤務条件」には懲戒免職処分は含まれない)の適用がないから、労働基準法第二十条第一項但書後段、同条第三項に基き労働基準監督署長の認定を受けなければならないのであるに拘らず、右認定を欠くから違法である、(ヘ)網走市教育委員会は「網走市職員の任免及び服務に関する条例」を適用したが、右条例は昭和二十六年八月十三日から施行された地方公務員法第二十九条第二項により網走市の一般職員にのみ適用さるべきものであつて教育職員については適用がない、教育職員については教育公務員特例法第二十五条の二により昭和二十七年十一月一日教育委員会法第七十条第一項により網走市教育委員会の設置せられる迄は北海道立学校の職員の例により、昭和二十七年十一月一日以後は特に教育職員の懲戒の手続及び効果に関する網走市条例を制定しなければならないのに之れを欠いている。(ト)地方公務員法第二十七条の「すべて職員の分限及懲戒については公正でなければならない」との明文に反し、感情的な恣意によつてなされた懲戒権の濫用であつて許されないことである。従つて申立人三名は昭和二十八年七月十三日網走市公平委員会に対し右懲戒免職処分に関する審査を請求したところ、(三)右公平委員会は昭和二十八年十二月二十八日右(一)の転任発令を承認し右(二)の懲戒免職処分を懲戒停職三ケ月に修正する旨の判定をしたが、右判定は違法であるから、申立人三名は昭和二十九年一月二十日原告となり網走市公平委員会を被告とし、右判定中懲戒免職を取消した部分を除き其の余は全部これを取消す旨の判決を求めるため行政訴訟(当庁昭和二十九年(行)第三号行政処分取消請求事件)を提起したのであるが、被申立人網走市教育委員会は申立人等に対し昭和二十八年一月十四日一週間以内に赴任すべきことを求め、更に一月十九日同月二十日迄に赴任すべき旨の業務命令を発した。然しながら申立人等において若し右転任命令に従うときは、(1)既に樹立された教育年度計画の根本的修正を必要とし教育の機能は痲痺し混乱を生じ結局教育を破壊し、(2)北海道教育職員組合網走市支部は一挙に支部の副執行委員長、書記長、組織部長を失いその業務の執行が不能になり、更に個人的には、(3)申立人小田島については、同人の妻ハツは現在網走市立第二中学校教諭として勤務しており、余儀なく別居を必要とするのみならず、ハツは昭和二十八年十二月七日男子分娩以来衝心性脚気で約三ケ月間の安静加療を要する状態であり、右幼児も脚気にて加療中であり、(4)申立人中村については、昭和二十一年シベリヤ抑留中に壊血病に罹り六ケ月の入院加療を受けて以来虚弱体質で近時病弱であり、(5)申立人近江については、其の母が六十歳以上の老齢であり、長女圭子当八歳は肺結核にて網走厚生病院に通院加療中で、今後約六ケ月の加療を要する状態にあり、妻は病弱で現在京都市に別居しているがその復帰同棲は不能となることが予想され若し申立人において前記行政訴訟において原告勝訴の判決を受けても、其の判決の確定に至る迄に相当の日時が必要であるから、其の間右転任発令処分の効力の発生を停止しなければ償うことのできない損害を生ずる。而して右損害を避けるため緊急の必要があるから、申立人等に於ては、被申立人が申立人等に対し為した昭和二十八年五月十六日付の転任処分の効力の発生をいずれも当庁昭和二十九年(行)第三号行政処分取消請求事件の判決が確定するまで停止する旨の決定を求めるため、行政事件訴訟特例法第十条により茲に本件申立に及ぶと謂うにある(疎明省略)。

按ずるに申立人等主張の如き被申立人網走市教育委員会の転任発令処分、懲戒免職処分、及び網走市公平委員会の判定が、違法なものであり取消さるべきものであるか否かについては、当庁に既に係属している当庁昭和二十九年(行)第三号行政処分取消請求事件の本案において審理せられ、其の判決によつて確定せらるべきことであるから、其の点の判断は格別として、当裁判所真正に成立したと認められる疎第一号証の一乃至三、第二号証、第八号証、第九号証の一乃至三、第十乃至第十五号証、第十六号証の一、二、第十七、十八号証の各一乃至三に申立人中村知久の審訊の結果を綜合すれば、被申立人網走市教育委員会が申立人等主張の如き転任発令処分及び懲戒免職処分をした事実、網走市公平委員会が申立人等主張の如き判定をした事実、網走市教育委員会が申立人等に対しその主張の日時にその主張の如き赴任の要求竝に転任を命ずる業務命令を発した事実、竝に若し申立人等において右転任命令に従い転任するときは、(1)網走市教育年度計画の一部の修正を必要とする事実、(2)北海道教育職員組合網走市支部の副執行委員長、書記長、組織部長としての申立人等の業務の執行が困難になる事実が疎明せられるけれども、右(1)について申立人等主張の如く教育の機能が痲痺し混乱を生じ結局教育を破壊するに至るか否か、(2)について申立人等主張の如くその組合の業務の執行が不能になるか否かの点については其の疎明が十分でない。又右疎明のための書証及び右審訊の結果を綜合すれば、(3)申立人小田島について同人の妻ハツが現在網走市立第二中学校教諭として勤務している事実、ハツがその主張の日時に男子を分娩しその主張の如き衝心性脚気に罹り、又右幼児も病気加療中である事実、(4)申立人中村について、その主張の如く壊血病に罹つたことがあり現在虚弱体質である事実、(5)申立人近江について、その母が六十歳以上であり、又その長女がその主張の如く肺結核に罹り通院加療中であり、且つその妻が病弱で現在別居している事実が疎明せられるけれども、果して申立人等の転任により原状回復又は金銭の賠償を以つて償うことを不能とする損害が生ずるか否かの点については未だ其の疎明が十分でない。他にこの点を疎明するに足る何等適切の証拠がない。果して然れば申立人等の本件申立は既にこの点において、行政事件訴訟特例法第十条第二項によりその処分の執行を停止すべきことを命ずることができないものと云わなければならない。仍つて其の余の主張に付ての判断を省略し、申立人等の本件申立を理由なきものとして之れを却下し、主文の如く決定する。

(裁判官 羽生田利朝)

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